ディズニーは「ブラック」か?

朝から晩まで働かされ疲れ切っている遊園地の従業員たちをAIに描かせてみた。

投票日が決まり、政治の季節がやってきた。とともにちょくちょく話題となっているのが「ブラック企業」問題だ。

こうした話題でユニクロやワタミといった企業名がちょくちょく出てくるが、これらはわかる(いや、これらがブラックだと断定するわけではなくてね。名前が出てくるのはわかる、ってこと)。僕が不思議に思うのは、こうした話題になぜ「ディズニー」の名前がちらっとでも登場しないのだろう、ということだ。

ディズニーはブラック企業なんかじゃない!という意見はもちろんある。確かに正社員の待遇はいいし、定着率も高い。また多くはアルバイトで、バイトは嫌ならいつでもやめられるんだから、社員を逃さずに蛇の生殺しのようにするブラック企業とはいえない。――その通り。理屈ではね。

ただ、実際には「正社員でもない、アルバイトのブラック化」というのも実はあるんじゃないか。アルバイトなのにやめられない。なぜ? それは「やめたいと思わないから」。だったら別に問題ないじゃないか、と思うかもしれない。そうだろうか。

例えば、アルバイトの採用時に催眠術をかけ、「安い時給で喜んで死ぬほど働け」と後催眠効果を深~く植えつけた場合、それはブラック企業ではない、といえるだろうか。これは真っ当なブラック企業(?)が裸足で逃げ出すほどのものすごいブラック企業だと思うのだが。そしてディズニー(というか、オリエンタルランド)がやっているのは、ほぼこれではないのか。

ディズニーの従業員は9割がバイトだ。そしてバイトでありながら、どうすればお客を喜ばせることができるか日夜考え、それぞれで創意工夫を凝らす。「お客様の笑顔がなによりの励みでです」とにこやかにいう。どう考えたってアルバイトの最大の励みは「カネ」のはずだが、そうじゃないらしい。

この、何らくったくのない、心からの笑顔は、カルト系の宗教団体とディズニーくらいでしか見られない気がする。どう考えたって、これは洗脳だ。ディズニーという仮想空間の幻想をアルバイトに植えつけることで、格安で極上のサービスを提供させることに成功したのだ。

忘れてはならないのが、「お客もまたそれに加担している」という点だ。ディズニーにいって笑顔をいっぱいもらいました。「ディズニーのなんたらかんたら」という本を読んで真心に涙しました。そんな声が巷にあふれている。僕には不思議でならない。彼らは、そんな素晴らしいディズニーの従業員たちのサービスを受けたとき、なぜ彼らにこういわないのだろうか。

「あなたはとても素晴らしい! 絶対に、アルバイトじゃなくて正社員として働くべきです」と。

サービスは、タダではない。真心は、タダじゃない。それが恋人だの親子だのの間なら別だが、「客と従業員」という場においては、必ず対価を支払うべきものだ。サービス残業が問題なのと同様、「サービス真心」や「サービスサービス」(なんじゃそら)は絶対にあってはならないものなのだ。

すべてのアルバイターよ、君を正当に評価するものさしは、唯一、「カネ」だけなのだ。サービスも真心も、お客様の笑顔なんぞで見返りがあったかのように錯覚してはならない。それに見合う「カネ」をもらったかどうか、それがすべてなのだ。なぜなら、君は「カネ以外には何ももらえない、ただのアルバイト」なのだから。

そしてディズニーに感激したすべての人へ。あなたを感動させた彼ら彼女らは、すべて時給千円のアルバイトだ。高校や大学を出てディズニーで数年アルバイトし、それから就職しようとしてももはや新卒ではない、中途採用だ。「たかだか有名な遊興施設で数年アルバイトした」経験を買ってくれる企業など、ない。社会から見れば、彼らはただの「フリーター」でしかない。そしてディズニーのアルバイトを頑張って正社員になれる確率は、限りなく低い(なにしろ9割はバイトだからね)。

そんな彼らのサービスを受けて、感動して帰ってこられるのか? よっく考えてほしい。僕なら、彼らが心をこめて接してくれればくれるほど、泣きたくなってしまうんじゃないか。「なぜ、君はそこまで自分が搾取されていることに気がつかないんだ?」と胸ぐら掴んでしまうかも知れない。

もし、本当に「ディズニーが大好き!」というならば、彼らと一緒になって「こんなに素晴らしいサービスを提供してくれる彼らを、ぜひ正社員に! そして将来の不安をなくし、心から働けるようにして!」とディズニーに訴えるべきではないのか? 彼らの待遇に目をつぶり、そのサービスだけを受けるなら、あなたも「搾取する側」の仲間だ。

真心は、タダ。――この幻想を、打ち砕こう。日本中のあちこちで、ブラック企業がプチディズニー化し始める前に。
(いや、冗談じゃなくて。既にユニクロなぞはそれに近い雰囲気を醸し出しているぞ。危ない危ない……)

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