ユニクロは成功したのか?

書店に行く。実用書などのコーナーにいって物色する。少し前までは「銃・病原菌・鉄」や「これからの正義の話をしよう」などが山積みになっていて購買意欲を掻き立てられたのだが、最近、どうも面白そうな本がない。

コーナーの大半を占めているのは、なんだかよくわからないビジネス書の類いだ。これらの多くは、どこぞの社長だのなんとかいう経済学者だのといった人たちが書いている。多分、こういう本が売れているんだろう。ときどき手にとってみるのだけど、目次を眺めただけで棚に戻してしまう。観点がまったく合わない人の書いた本は、読むだけ無駄だ、という気持ちになってしまう。だが、世間的にはそうした本が売れているんだろう。

この種の本の多くは、成功者が語る成功の秘訣・失敗しないための秘訣の本だ。こうすれば必ず成功する、失敗するのはこうするからだ。そうした事例が帯に目次にずらずらと並んでいる。そうしたものを見ると、ついこう尋ねたくなるのだ。

「あなたは、成功したんですか?」と。

ユニクロの柳井さんと大前研一氏がなにやら対談本を出したりして売れているらしい。こうだから日本は駄目だ。日本人よ、成功したければ海外へ出よ、そういうものだったと思う。それを目にして、またぞろ思ってしまったのだ。

ユニクロは、成功したのか?

もちろん、大企業になったことはわかる。世界中に店舗を構える巨大企業に成長したのは確かだ。じゃあ、「成長した」=「成功した」ってことなのか? 要するに、でかくなることが「成功する」ってことなの? どうもその時点でどこかずれを感じてしまう。

その他のビジネス書も皆そうだ。こうすれば出世する。いえ、出世しません、自営業ですから。こうすれば売上があがる、契約が取れる。いえ、売上を上げるのが目的で本を書いてませんから。じゃあ、何なの? あんたにとって成功って何なのさ? といわれれば、そりゃあ「良い人生を送る」ということだろう、と答えるしか無い。そうじゃないの? みんな、いい人生を送るために頑張ってるんだと思ったんだが、そうじゃないのか?

となると、今度は怪しげな人生論の本がどっと押し寄せてくる。幸せになりたいなら◯◯しなさい、☓☓しなさい、と。違う。それはぜんぜん違う。「◯◯すれば幸せになる」なんてことを求めてなんかいない。なんとかに感謝の心を持とうとか御先祖様を供養しようとか毎朝30分早く起きようとか、そういうことで幸せになりたいわけじゃないのだ。

なぜ、わかってくれないんだ。
僕は、ただ単に、「思う存分に働いて人生を良いものにしたい」だけなのに。

つまり、「幸せな人生」という目的のために「仕事をする」という手段をどう活かしていくか、というしごく当たり前なことを聞いているに過ぎないのだ。それなのに、それに答えてくれる本がない。「幸せな人生のために、お金持ちになる本」とか「幸せな家庭を犠牲にしてでも出世する本」とかはある。だけど、それは「幸せ」とは違う(関連はあるけど。特にうちの妻を幸せにするにはお金が特に関係があるけど)。

ユニクロの柳井さんが「成功とは……」と説く。それがわからない。「会社を大きくするには……」と説くならわかる。だが「成功」は違うだろう。成功するということは、その会社があることでどれだけの人が幸せな人生を手に入れることができたか、じゃないだろうか。僕はブランドものは大嫌いだけど、そういう意味でブランドの底力は理解できる。ダンヒルのコートを買って、僕は確かに小さな人生の幸せを感じることができた。ユニクロの服を買っても、それはまったく感じない。むしろ感じるのは人生の侘しさ・悲哀だ。

では、別の見方で「幸せ」を感じることができるのだろうか。例えばユニクロの服を買うことで、それを作っている中国の女工が幸せになるのだろうか。ユニクロは、フェアトレードだろうか。違うだろう断じて。「発展途上国に暮らす人々のために少し割高ですが彼女たちの作ったこの服を買ってください」ということなら、たとえユニクロの服であっても僕は小さな人生の幸せを感じることができたろう。だが、それはユニクロにはない。

結局のところ、ユニクロという会社のおかげで僕が人生の幸せを感じることは、ない。おそらく会社に勤めていてやりがいのある仕事をしている社員の中には幸せを感じる人もきっと多いだろう。だがそれはユニクロでなくとも同じだ。むしろ「日本でいちばん大切にしたい会社」に出てくる中小企業のほうがはるかに「幸せ度」は高いに違いない。

そうしたことを考えて、改めて問いたい。ユニクロは、成功したのか?

企業なんだ、そんなご立派なことばかりいっていたら倒産する。会社は金を稼がないといけないのだ。そういう意見はもっともだ。だが「金を稼いで会社を大きくする」以外にナニモノも目的を持たない会社が、果たして幸せな会社なのだろうか。

パタゴニアというアウトドアの会社がある。ここは人道的な労働環境と環境保全のために会社を経営している。そして、着実に成果を出している。その姿勢が多くの人の賛同を得、そして一つのブランドとして定着している。パタゴニアという会社があるおかげで、少しだけ幸せな人生を手にできた人は、大勢いる。人だけでなく、多くの生き物も。こういう会社を見ると、「会社を興すことで成功を手に入れる」ということの意味が少しわかる気がする。

「働いて成功する」ということを説く前に、「働いて成功するとは、そもそもどういうことなのか」ということから話をしてほしい。そういうビジネス本なら、僕は読みたい。「これからの正義の話しをしよう」では、そもそも正義とはなにか、正義は正しいのか、正義であるべきなのか、そうした根本からの解決を試みていた。「文明の崩壊」では、過去の文明崩壊の実例を検証することを通じて人間と文明のあるべき姿とはどういうものかまでを見通して語ろうとした。こういう本がいい。小手先でなく、表層的な話でなく、もっと根源的なところから話そうと試みる本がほしいのだ。

そして……。そのことは、実は「読み手」にもいえることなのだと思うのだ。僕らは「成功する」とはどういう事なのか、その根本を疑うことから生きることをはじめているだろうか。結局は、「つまらない本が多い」とは、「つまらない読者が多い」ということなのかも知れない。心から「すぐれた本が読みたい」と思うなら、僕らは「優れた読者になる」努力を怠ってはならないのだろう。おい、そこの君。「KAGEROU」なんか予約してる場合か。

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