Chrome OSのオープンソースプロジェクトが公開となり、次第にどういうものが見えてきたところで、さまざまなところでChrome OSへの評価が出始めてきた。各種のオンラインメディアでもさまざまな意見が出てきてなかなかに興味深いのだけど……。中には、「そういう論点はそもそも変でしょ?」というようなものもけっこうある気がする。
新しい技術は、常に期待と懐疑を背負って登場することが運命付けられている。Chrome OSも例外ではない。それまでなかったものには、どうしても「それまでの常識」から判断してしまいがちだ。だが、「そもそも、そういう常識の向こう側を考えて作った」ものに対し、常識で判断するのはどうなんだろうか。
いくつか見た記事の中で、もっともがっくりきたのは、「ネットワークにつながっていない状態ではあまり使えないようだ」といった意見だ。そりゃそうだろう、そもそも「ネットワークにつながった環境」を前提に設計されているんだから。たとえばハードディスクにインストールすることを前提にしたWindowsやMac OSに対して、「ハードディスクのないマシンではあまり役に立たないだろう」という批判がありえるだろうか。(……そういや、Macが登場した当初、「マウスがないと使えない」ということを繰り返し批判する人たちが大勢いたのを思い出すな)
また、未だに根強く「すべてをオンラインに置き、ローカルにソフトをインストールできない」ということへの拒否反応があるのだな、ということもつくづくと感じだ。これも、ハードディスクがパソコンに乗ったばかりのころを思い出す。「ハードディスクのような不安定なストレージにソフトや大切なデータを入れて使って大丈夫なのか」という意見があったんだよ当時は(ほんとほんと)。が、現在、ハードディスク以外にバックアップ用のメディアを用意しているユーザーのほうが少数派じゃないだろうか。
そうした「おいおい」という意見とは別に、けっこう鋭い指摘もいくつか見られた。1つは、当たり前といえば当たり前なのだけど、「Chrome以外のブラウザが使えない」という指摘だ。これは、意外と重要な問題となりうるかも知れない。それは「IEユーザーが未だに多い」とかいったことではない。独禁法関連の火種になる可能性を感じる、ということだ。この先、Chrome OSが成功し、どっとシェアが拡大したとき、WindowsへのIEバンドルが長い間マイクロソフトを悩ませたのと同様の問題が、いずれ発生する可能性は否定できない。
それ以上に大きな問題は、「Webアプリケーション充実」への不安だ。プログラムはすべてChromeブラウザでアクセスするWebアプリケーションとして用意する。これは、Chrome OSのキモとなる部分だ。実際、GmailやGoogleドキュメントのレベルのWebアプリケーションが充実してくれば、かなりドラスティックに「すべてをクラウド上に」という革命は起こりうると思っている。
が、通常のローカルにインストールするネイティブアプリケーションそのままの水準を維持してWebアプリケーションに移行するのは、新たにネイティブアプリケーションを開発するより難しいんじゃないか。Webアプリケーションの開発(Googleドキュメントレベルのもの)は、これはかなり大変だ。何しろ、Webだからね。手を抜こうと思えば手を抜いて作れる。が、「それまであったWebサイトに毛の生えたもの」じゃあ、普通のパソコンからブラウザでアクセスする分には問題ないとしても、「Webブラウザからアクセスする以外に何もできない」Chrome OSではダメだ。ネイティブアプリケーションとほとんど変わらないレベルの、非常に高度なWebアプリケーションが必要だ。
これは、かなりの難問だろうと思う。だが、Chrome OSが成功するためには避けては通れない道だろう。おそらくは、当面の間、それはGoogle以外からは提供できないかも知れない。Googleが、いかにしてChrome OS用の非常に高度なWebアプリケーションを揃えられるか、そこにかかっているかも知れない。が、もし万が一それが用意できたとしても、それがあまりに成功してしまうと、今度は「Google以外は参入できない」という「Google独占」に陥ってしまうだろう。
また、多くのソフトウェア開発を行っている企業は、それまで培ってきたネイティブアプリケーション開発のための技術を捨て、未知の世界で再挑戦しなければならなくなる。ネイティブアプリケーションで成功していたところほど、そっちへはいきたくないのではないか。
このあたりをどう乗り越えるか、そのへんにChrome OS成功の鍵はあるように思うのだけど、どうだろうか。
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